台湾の街を歩いていると日本語で話し掛けられることが多い。台湾では若い人もかなり日本語を操るが、やはり日本語を母語とするお爺さん世代の日本語は素晴らしい。流暢で且つ美しい日本語を聞くと、自身の日本語が恥ずかしくなってきてしまう。この世代は確実に減っているが、まだまだ現役の人も多い。台湾を旅してきて、日本語しか出来ない私はどれだけこの世代の人に助けられてきたことだろう。そして、台湾への訪問回数が増えるにつれて、日本語世代の台湾人と交流を持つようになった。こんな私でも再訪すると数十年来の友人のように迎えてくれる。感謝してもしきれない。みんなが元気なうちは台湾に通おうと思っている。(Sumi)
片倉佳史著 台湾に生きている「日本」(祥伝社新書)
台湾に居を構えて13年になる片倉さんが、日本時代に建てられた官庁建築や鉄道施設、神社や石碑、様々な建築物など「日本時代が残したもの」について、建てられた当時の様子から現在の状況までを紹介している。神社は殆どが破却されたものの、一部では施設が残されているものもある。小学校内に建てられた神社の狛犬が今も校庭に置かれ、生徒を見守っている話はとても興味深い。官庁建築や鉄道施設などは現在も現役で使われ、その多くが史跡に指定され、保存の対象になっているということに改めて驚かされる。日本は近年、このような歴史建築を安易に破壊する行為が繰り返されていて、台湾の方が歴史建築は大切にされ、残されているのではないかと強く感じる。
日本時代の日本人と台湾人(当時は日本人である)との繋がりも興味深い。出征する日本人警察官の荷物を運ぶのを自主的に手伝い、嵐の中、濁流に飲まれてしまった原住民の少女の話は愛国美談として広められたが、現地では政治的に広められたとは思っておらず、美談は美談として語り継ぐべきと思われているという。
後半には、「台湾の言葉となった日本語」の例が辞典形式で纏められている。集録されている言葉は代表的なものを取り上げたものと思われるので、語彙が充実すればこの辞典だけで一冊の本になるのではないかと思う。日本語起源の言葉は、時代が経つにつれ消えゆく可能性が高い。日本国内でも古い言葉はどんどん死語になってゆく。記録に残せる最後の時期に来ている気がしてならない。
巻末には「訪ねてみたい歴史建築と遺跡100選」という片倉さんが推薦する歴史建築の一覧がある。台湾へ何度も足を運んでいる人、台湾は二、三度目という人も、この一覧を基に街を歩いてみては如何だろうか。台北市内で買い物をするのも旅行の楽しみの一つだが、「台湾に生きている日本」を訪ねて街を歩くのも楽しいと思う。(私は46箇所訪問)
嘗て台湾人と日本人は共に生きた時代があった。多くの台湾の人々と触れ合い、丹念に取材を重ねてきた「台湾在住の日本人」の片倉さんだからこそ、書くことのできる「台湾と日本の時を繋ぐ本」といえるのではないだろうか。台湾好きは勿論、歴史に興味のある方には欠かすことの出来ない一冊です。